2024年7月14日日曜日

嵐の中でささやきに耳を傾けささやきを始める『彼女たちの戦争 嵐の中のささやきよ!』

 彼女の著作を読むのは初めてだが、絵も彼女自身のものなのですね。

展覧会や音楽朗読劇も手掛けている多彩な方なのだ・・・。

各々表紙絵+本文3ページでコンパクトに紹介された、”彼女たち”の生涯、それはそれぞれが抗い、吞み込まれ、生き延び、死んだ”戦争”であった。
『ちくま』及び「webちくま」に連載されたものを土台にしている。
サブタイトルの「嵐の中のささやき」はエスペランチストで反戦反帝国主義者の長谷川テルの著書であるが、彼女とエウサピア・パラディーノ、ヒロシマ・ガールズ(←原爆乙女の英訳である)、「風船爆弾をつくった少女たち」は書き下ろし。
アンネ・フランクと姉のマルゴーという、第二次世界大戦下のナチスの犠牲者に始まり、風船爆弾をつくり(つくらされ)それが6名の死者を出した(日本がアメリカ本土を直接攻撃して出した唯一の死者であった)加害者側の女性達で幕となる、女性たちの戦争の物語は、関東大震災直後に虐殺された伊藤野枝、サフラジェットのエミリー・デイヴィソン、韓国の水曜デモの人たち、ブラック・イズ・ビューティフルを歌う女たちのように不条理への抵抗者ばかりではなく、男性に才能を封印させられ手柄を簒奪される女性達(ロザリンド・フランクリン、クララ・イマーヴァール、ミレヴァ・マリッチ、カミーユ・クローデル、リーゼ・マイトナー)がこれでもかと示され、また満州国皇后だった婉容の無残な最期を取りあげられ、粛清の中で詩を記憶させたアンナ・アフマートヴァ、自ら生を絶った詩人シルヴィア・プラスやヴァージニア・ウルフ、輝かしい栄誉に辿り着くもやっぱり女性ゆえの差別と偏見を身に受けていたアスリッド・リンドグレーンやマリア・スクウォドフスカ=キュリー…どれも痛々しい。
それでも、「ひとりひとりのささやきが、決して無力なんかではないと、…私は信じ、これを記したい。」という著者の思いを私たちも受け止めよう。
なお、メアリー・バーンズ(言わずもがなフリードリヒ・エンゲルスのつれあいである女性労働者)を思わせる高井としを。『女工哀史』の印税がプロレタリア解放運動宣伝パンフレット作成と青山の解放運動無名戦士の墓建立に使われたのものの、生前の著者本人及び遺族に十分に渡ることがなかったと不服であった旨が書かれ、「運動で人間の平等を求め、搾取や抑圧からの解放を謳い上げ、正義と民主主義と反戦平和を高らかに掲げ、…国からの弾圧に、抗い、戦う、男たち」に「金を「管理」される女」という指摘を、あそこに肉親たちを合葬されている「解放運動無名戦士」あるいは治安維持法犠牲者の遺族として真剣に受け止めようと思う。

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