2025年11月30日日曜日

読書メモ:ジートコヴァーの最後の女神たち

なんという読後感!最初から最後まで「女神」への現世の仕打ちが恐ろしい。(が、それ自体はまあありふれている。)
変節する体制順応者の姿(他責思考、被害者意識を拗ねらせる)に既視感。具体的に言うと、シェピチコの『処刑の丘』の裏切者だな。
しかし、一番興味深かったのはチェコはモラヴィア、そしてスロヴァキアの人名愛称(それも苗字の)。村人同士はギヴンネームではなく苗字で呼ぶのか。

2025年11月19日水曜日

深夜2時過ぎまでかけて読了。『デモクラシーのいろは』

 


ストーリーは(無理な展開がないわけではないが)おもしろい。敗戦直後の日本で、民主主義が根付くのがいかに困難か、同調圧力になびきがちな様子はほんとうにそこまで?!と勘繰りながら読み進めると、強かな反撃があったり。そして根深い女性蔑視が一見リベラルな男性にも潜むことが暴かれ、現代に直結して苦笑してしまう。
なんだか井上ひさしの戯曲みたいで、舞台を観ているような感覚になる。そう、舞台化(映画ではなく)されたら是非観たい。

2025年11月16日日曜日

あの絵にあの曲『名曲が語る名画』

 

名曲に結び付いた絵でまず想起するのは「展覧会の絵」でムソルグスキーに追悼されたヴィクトル・ハルトマンの絵画で、この本にも勿論掲載されている。絵を知っていて曲を知らないものもあれば逆もある。意外性のある組み合わせだったのが「禿山の一夜」に項で紹介されたのが洗礼者ヨハネを描く、ロシアとは全く別世界の西洋絵画的なボッティチェリらの作品。まあ、しかしこういう企画だと、聞きながら読めるような(自分でいちいち検索するのではなくて)附属の音源が欲しくなる。無精なので。それと、「画家マティス」はあの人だと思っていた。

7 モーツァルト:オペラ『魔笛』&マルク・シャガール『魔笛』
13 ショパン『革命のエチュード』&マルチン・ザレスキ『ワルシャワ武器庫の略奪』、ユリウシュ・コサック『オストロウェンカの戦い』、オラーヌ・ヴェルネ『ポーランドのプロメテウス』
27 スメタナ『我が祖国』&ムハ『故郷のスラヴ人~トゥラン人の鞭とゴート族の剣の間で』『グリュンワルトの戦闘の後~北スラヴ人の団結』
39 シェーンベルク『3つのピアノ小品』&ワシリー・カンディンスキー『印象Ⅲ(コンサート)』
40 ラフマニノフ『死の島』&アルノルト・ベックリン『死の島Ⅰ』『死の島Ⅱ』
41 スクリャービン『プロメテー火の詩』&ルーベンス『縛られたプロメテウス』、ジョルダーノ『縛られたプロメテウス』、フューガー『火を盗んだプロメテウス』、ブロッホ『ヘラクレスによって解放されるプロメテウス』
42 ストラヴィンスキー『火の鳥』&マルク・シャガール『火の鳥』舞台装置
48 プロコフィエフ『ロメオとジュリエット』&ブラウン『ロミオとジュリエット』、ライト『ロミオとジュリエット』、クリムト『ロミオとジュリエットの死』
49 マルク・シャガール『14の楽曲』&チャイコフスキー『白鳥の湖』、ストラヴィンスキー『火の鳥』

そういえば、「世界の美術館めぐり日本編」は東京の美術館ばかりだな。


2025年11月10日月曜日

不屈の本棚11月:わたしがナチスに首をはねられるまで

 

レジスタンスを綴った著作としてはかなり異色。自伝的フィクションというのはよくある手法ながら、ドキュメンタリー映像を作成しながら客体と自分を語るという手法。
ナチス将校を刺して斬首されたラトヴィア出身のロシア系ベルギー女性マリーナは、墓碑に「斬首された」ことと「マルターエフの妻」であることしか書かれなかった。一緒に埋葬された男たちが「政治犯」とか「ベルギー解放軍」とか書かれているのに。そしてこの夫が(レジスタンスはしてはいたらしいが)家族に対しては卑劣であった。”戦争孤児”となった遺児は深いトラウマを抱え、母はしてもいない罪を被ったのだと言う。
女性の実績を無視し消し去ることは学問や芸術でしばしば行われ、昨今はそういった歴史の掘り起こしが行われているが、レジスタンスにおいても”それ”はあった。
マリーナは亡命ロシア人でありながらスターリニスト、敬虔なカトリック信者でありながらテロに走るという、一筋縄ではいかない組織に属さない野良レジスタンス。彼女と家族、周囲との軋轢が痛々しく、まさに今に通じるものがある。
彼女が同志を得られなかったのが残念だ。治安維持法の弾圧に抵抗した祖母は、その時代の仲間達とは生涯にわたって親交を保っていたのを見ていたので、そう思えてしかたない。