2020年11月21日土曜日

異端の鳥>現に存在する(今そこにある)差別と暴力に

 ※原作の『ペインテッド・バード』は未読。

「異端の鳥」場所は特定しないようにってことだけどドイツ軍ソ連軍(赤軍?)コサック入り乱れて民衆がそれにまして自主的に残酷で、ポーランド映画祭で観た「ルージャ」や「ヴォウィン」みたいでウクライナ~ポーランドをイメージしてしまった。

ああいう異質分子排除はヴォルィニに限らないのだろうが。軍やコサックみたいな武装した人が暴力的なのは当然だとして(それも十分恐ろしいしコサックの残忍ぶりは意味不明だったが)普通の村人が何かの拍子で手が付けられない暴虐を露わにするのが怖いことで全く他人事じゃない。遠くスラヴの地のこと大戦中のことでは終わらない。



人工言語スラヴィック・エスペラント(沼野充義先生が書かれた解説ではインタースラヴィク)使用というのでどんな感じかと聞き耳たてていたがたぶんエスペラント語とは違う、スラヴ系の共通語らしく作られたというので教会スラヴ語みたいなのかと想像したり。スラヴ系でない俳優の台詞がぎこちなかったのはいたしかたあるまい。

ドイツ軍はドイツ語、赤軍の人はロシア語しゃべっていた。つまりロシア~ソ連はドイツと共にスラヴィック・エスペラントが話されるこの地域の向こう側、外の世界という明確な視点が示されていた。スラヴィック・エスペラントは字幕見ながら聴いてところどころ聴き取れる程度。

あと「炎628」のフリョーラくん=アレクセイ・クラフチェンコが出ているね。「異端の鳥」で主人公演じた少年にトラウマにならないようなケアはあったと思うけど、クリモフ監督も彼に気を配ったらしく、その甲斐あってか全然トラウマになっていないみたいだな、クラフチェンコは。戦闘映画大好き俳優になっちゃったものね。「炎628」のようなファシズム告発ものではなくて、”愛国”的で好戦的で民族差別的にもなりかねないような作品にも厭うことなく(たぶん)出演しているんだから。

あんまりこれまで観たあれこれの映画に似ている似ていないと論じるのもなんだが、暴力的ではあっても映像はむしろ美しくグロいのは限定的なのでアレクセイ・ゲルマンやバラバノフじゃないからそれほど拒否感はなかった。動物虐殺場面はきつかったが。

ソ連映画で言えばエレム・クリモフの「炎628」が連想されるだろうけど(フリョーラ少年演じたクラフチェンコを冷静なソ連軍人役に起用しているのは監督が狙ったとしか思えないあざとさを感じる)映像の美学に関してはむしろクリモフの伴侶だったラリーサ・シェピチコ「処刑の丘」か。

民衆の暴力、民族浄化に至る累々とした虐殺はウクライナの歴史映画大作「ヴォウィン」が思い出される。

ハンガリーの子ども虐待扱った「誰のものでもないチェレ」や、ロシアのカネフスキー「動くな、死ね、甦れ」も連想された。





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