2021年12月31日金曜日

容赦ないまなざし~夜空に星のあるように

 29日亡き父の誕生日、生きていれば88歳。母とお墓参りに行く。そしてその足で新宿武蔵野館に映画を観に行った。初期ケン・ローチ、というかローチのデビュー作「夜空に星のあるように」。Я смотрела первую работу Кена Лоуча "Бедная корова ".

原題:Poor Cow が「夜空に星のあるように」というロマンティックな邦題になったのはどうしてなのだろう。日本初公開は1968年、何十年も経ってからのリバイバル上映。

2016年12月に川崎市市民ミュージアムで「ケン・ローチ初期傑作集」を観たが、「キャシー・カム・ホーム」を思い出させる切なさだなあ、と思ったらヒロインは同じ女優さんだったんですね。キャロル・ホワイト。プログラムを読んで、アルコールや薬物依存、男性スタートの不幸な関係があって、演技に高い評価を得ながらも遅刻や欠席の多さで仕事を失い、91年に48歳の若さで亡くなっていた。キャシー以上に本作のジョイの行く末を思わせるようなその後だったのだなと悲しくなる。

さらに、ヒロインの夫(正業に就かない~何せ泥棒家業なので~上にDVしまくる典型的クズ男)役のジョン・ビンドンに至っては「映画の内容通りに、生涯にわたって何度も刑務所暮らし」「殺人罪で起訴…無罪となったが…俳優としてのキャリアは終わる」「2度の破産」「性生活の乱れと薬物乱用の末、1993年10月にエイズで死亡」とあって文字通り救いようがなく、言葉を失う。

ローチさん、年を重ねると主人公たちに温かいまなざしになってきて、特に男性の登場人物に関してはユーモアも添えられる(サッカー絡みのことが多い)作風になるが、女性の造形は容赦ない。母は強しとか不幸を乗り越える強さを備えているとかマドンナ的なことを期待するような幻想を一切抱いていないのはさすがだ。←このレアリズムが”いつまでも心は少年”気味だったフドイナザーロフや奇しくも”女性のことはよくわからない”と告白していたクストリッツァ(それでも自覚していたのは偉い)とは一線を画している。

そんなわけで、何の救いもなく、貧困と不幸のうちに、ヒロインは生きてゆく、という映画で、それが今観てもちっとも古くなっておらず、切実に感じられるのだった。


2016年に観に行ったときに買った「まなざしの力/ケン・ローチ回顧展」発掘した。今回の「夜空に星のあるように」プログラムと一緒に保管しておく。



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