現代アジアの女性作家秀作シリーズに、イランが登場するのは意外にもこれが初めてのようだ。
古来からの詩と文学の国イラン。
『天空の家 イラン女性作家選』
藤元優子編訳段々社2014年5月刊
ここに収められた7編の短編小説は、どれも珠玉の小品で、かの地の女性たちの喜び、悲しみ、孤独、親愛の息吹が感じられる。
『テヘランでロリータを読む』みたいな西欧センスのインテリ特化ではなく、より身近で実際の生活を描いたもので、親しみを持てる。
ゴリー・タラッキー『天空の家』
革命後の戦禍を逃れて国外へ、親族間でたらい回し、椅子一つ分の安住の地を求めて流浪するマヒーン夫人。親族もそれぞれ事情があり決して薄情なわけではないのだが・・・。
タラッキーは革命直後にパリに移住した。邦訳作品「わが魂の大母」(『すばる』2008年12月号藤元優子訳)
モニールー・ラヴァーニープール『長い夜』
作者の分身と思しき少女マルヤムの目を通して語られる、貧しい友人ゴルパルの「結婚」。シーツに証しの血を染めさせる風習も描かれる。
スィーミーン・ダーネシュヴァル『アニース』
チェーホフやサロヤンの翻訳でも知られたイラン作家協会会長も務めた重鎮で2012年没。
舞台は革命数年前のテヘランと思われる。
そうそう、かなりチェーホフ的。特に『可愛い女』あたりだろうか。主婦バトゥール夫人からみたかつての使用人アニースの狡猾な世渡りがユーモラスに綴られる。
ファルホンデ・アーガーイー『小さな秘密』
イラン・イラク戦争時の病院における市井の人々。
「モスクワを歩く」のサーシャみたいにひたすらフィアンセの愛を確認しようとしていた負傷兵アーザルミーさんの決断が泣かせる。
ゾヤ・ピールザード『染み』
ふとしたことから染み取りに夢中になり、周囲との心理的な“染み”を生じていくレイラー。短編映画を観ているかのよう。
ヴァリーバー・バフィー『見渡す限り』
これもイラン映画に出てきそう。気丈な女性、語り手の父の妹であるヘクマトおばさんの葬儀の前後の様子を、思い出を絡ませながら描く。身内の死の喪失感と受容とは、深く共感できるものではないだろうか。
シーヴァー・アラストゥーイー『アトラス』
アトラスはここでは女性名。最も幻想的な作品。『すばる』2008年12月号に後日談のような作品「太陽と月はまた廻る」の邦訳あり。
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