2015年6月21日日曜日

EUフィルムデーズ2015

アイルランド・ラトヴィア等々観にいけなかったのが多くて恨めしい。
版権の問題等で難しそうだが、過去上映のEUフィルムデーズの作品を改めて観る機会があったらよいと思う。
今回、ハンガリーとポーランドでそういった特別プログラムがあって、これは偶々どちらも既に観ていたので”見逃していたものに出会える幸運”には与れなかったが、こういう企画は良いと思う。
と思う一方で、今回作品を出さなかった国(イギリス・ルーマニア等)がありながら、二枠とっている国(ベルギー・ポーランド・ハンガリー)があるのは腑に落ちないということも。
理想と言うと、全ての加盟国が出品してほしいし、出すからには日本語字幕をつける、最低でも解説をつけることをしてほしい。
それに加えてアーカイブを観る機会を作ってほしい、という贅沢な要望を持っている。

※「イーダ」と「パンク・ロック・シンドローム」は既に観ていたのでここでは感想を記さないが、お薦めであることは変わらない。

「ザ・レッスン」。
ブルガリア映画で、甲斐性のない夫のこさえた借金に苦しめられる小学校教師の話。ポーランド映画の「借金」にも似ていて、原始資本主義の亡霊があの辺を徘徊しているのが見えてきて心が苦しくなる。生徒たちの心も荒んでいるようである。そういえば数年前、老夫婦が非常手段に訴えるハンガリー映画も観たような…。
直前にアテネ・フランセでメドヴェトキンの「幸福」にてダメ夫と働き者の妻パターンを観たばかりだった。ダメ夫、しかし子煩悩なんだ。
東京国際映画祭では観られなかったので、ここで観られて良かった。

「マコンド」
ウィーン郊外の移民たちの住む集合住宅、主人公は「あの日の声を探して」の子をもっと表情豊かにしたチェチェン人少年。可愛いけど、難しい年頃で結構ワルなんだね、この子が。
ここにもチェチェンのコミュニティーがあり、やはり皆さんで踊るシーンが(少年くんは踊らないが)ハラショー。
「マコンド」が何に似ているのか思い出した。ダルデンヌ兄弟の「息子のまなざし」だ。擬似的な父子関係のぎこちなさ。家父長社会において小さな男の子が家長役を担わねばならない息苦しさを感じる。まだだめとなると、一家の長となるべき人を周囲があてがってくる。
移民街の少年たちの社会では、何となくムスリム(西アジア・カフカス)とアフリカ系が緩く対立している感じ。


「タンジェリン」エストニア+グルジア
中心人物4人の俳優それぞれがいい雰囲気。そこにアブハジア人が入っていないのは残念だが、グルジア人監督としてはアブアジア紛争を描くにはこれがぎりぎりだったのだと思う。アブハジア人が言ってしかるべき台詞をグルジア人兵士に言うのはチェチェンの契約兵士
アニメーション以外のエストニア映画はEUフィルムデーズで何本か観たがやっと何とか観賞に耐えるのが来た感じ。それが「タンジェリン」。敵同士一つところに居合わせて反目しつつという設定は「ノーマンズランド」その他よくあるものではあるけれど。
EUフィルムデーズ今日観た「マコンド」「タンジェリン」ともチェチェン人が登場。「タンジェリン」はグルジア人監督のエストニア作品。エストニア人、グルジア人、チェチェン人。アブハジアが舞台ながらアブハジア住民は出てこない。兵士達がちらりとだけ。
今年のEUフィルムデーズのベスト作品。
連休中に観た「マックスへの手紙」で、アブハジア人マックスの「隣近所に住んでいたグルジア人には何の恨みもないが、突然グルジア軍が攻めてきて戦うしかなかった。こうなった以上もうグルジア人と一緒には暮らせない。難民になったグルジア人の人たちは気の毒だと思う。でももうソ連時代には戻れない。戻れたらどんなにいいかと思うが」という言葉(←正確な再現ではない)を重く思い出す。アブハジアでも南オセチアでも、そしてドンバスでも、そうなってしまったのはいったいなぜ?
戻れない、が、それでも殺しあわずに生きていかなければいけないのだ、人間は。
まずは他人の言葉や信じるものを奪うことがあってはならないのだ。

「小さなバイオリニスト」オランダ
ほのぼのと、いいお話だった。主人公はサッカー嫌い少年(お父さん曰く「オランダの男なら、やっぱサッカーだろ!」)、友達は移民系、という点が後述のチェコ「海へ行こう!」と共通。家族の秘密を探ってしまうという点でも同じか。

「メイド・イン・ハンガリー」ハンガリー
初めて観るつもりだったのに、最初のコンサート場面であれ、観たことあるじゃん!と気付いた。
でも、冒頭のパスポートコントロールのところでまだ当時は強豪だったハンガリーサッカーのコネタがあったことは忘れていた。
 写真ぼけぼけだけど、一部でイケメンとの評判の高い「ハンガリー大使館人質事件」及び「メイド・イン・ハンガリー」主演俳優サボー・キンメル・タマーシュさん。
ぱっちりした瞳でかなりの童顔。映画でも可愛い系の顔だと思うが実物もそうなのだ。

「メイド・イン・ハンガリー」は社会主義政権下で禁制の音楽に挑む青春映画、しかも実話基にしてあるということでシャフナザーロフの「ジャズメン」ハンガリー版。チェコの「レベラブ!」にも似ている。まあまあ楽しめるミュージカル映画。 面白くはあるが、主人公ミキはアメリカ帰りをこれみよがしにひけらかす厭味な子(ほんと大人気ないんだ)だし、ルネーは悪い奴(犯罪者)だし。
ここまで単純なアメリカ文化信仰は観ていて恥ずかしくなる。
2012年に観た時よりも、ずっとずっと強く、映画最後のミキこと実物ミクローシュさんのステージ「メイド・イン・フンガ~リヤ!」にじ~んとした。なんかジュリーみたい。
しかし、皆ミュージカル好きだね~。ハンガリーもチェコもソ連も。
タイトル(邦題)はメイド・イン・ハンガリーであり、主人公がライバルから申し渡される”自前の音楽をやれ”的メッセージ、それはミクローシュさんの歌うこの歌の歌詞にもあって、ミクローシュさん自身ここから変身して大スターになったと思われるが、私が観たかったのはまさにその部分、アメリカンポップスのコピーから自国の文化に昇華していく、主人公の成長の過程だったのだが…。

「サンタ」リトアニア
残念な出来だった。要らない登場人物やエピソードが多くて、映画がとても長く感じる。でもそれらがないとありきたりの駄作になるだろうし、悩ましい。フィンランドの懐メロポップスは好き。
やっつけでも字幕を入れたことは大評価する!アーチュー!

「海へ行こう!」チェコ
ズウ゛ィエラーク調で楽しかった。新鮮さはないもののツボは押さえている。若さと器用さがうまく調和している。でもオランダ作品といいこれといい、サッカー辞めたい少年続出は気になる現象。


特別プログラム「ポーランド記録映画の世界」
あら、これも既に観たことあった作品だったよ。
「駅」クシシュトフ・キェシロフスキ
「私の叫びを聞け」

体調不良でつらかったのもあるが、二回目でより理解が深まったかと言うと、そうも言えない。
が、幸運なことにアフタートークで映画評論家のミハウ・オレシュチクさんの的確な解説があった。
ミハウ・オレシュチクさん(左)

渋谷・映画美学校 EUフィルムデーズ関連企画「ポーランド映画の作家たち キェシロフスキとザヌーシ」
クシシュトフ・キェシロフスキ「煉瓦工」「ある党員の履歴書」「種々の年齢の七人の女」
クシュシュトフ・ザヌーシ「現代音楽家クシュシュトフ・ペンデレツキ」
あー、もうみんなクシシュトフだ。

渋谷・映画美学校特別講義(EUフィルムデーズ関連企画)映画祭プログラミングディレクター対談「EUと映画」

 渋谷・映画美学校特別講義(EUフィルムデーズ関連企画)映画祭プログラミングディレクター対談「EUと映画」に観客として現れたイジー・マードル監督(右から2番目)。「海へ行こう!」の監督さんね。俳優出身だという。
チェコセンターの映画界にも現れていたという。精力的な方だ。
左から、東京国際映画祭の谷田部吉彦プログラミングディレクター、グディニャ映画祭アーティスティックディレクターのミハウ・オレシュチクさん




ポーランド国内の映画作品の権威、グディニャ映画祭の新しいトロフィーの説明図
最高賞は金獅子賞(どっかで聞いたことあるねえ)
それにちなんで2頭のライオンがついているのだが、
何と万華鏡になるトロフィーだ!!!
しかもちりばめられているのがバルト特産の琥珀だという。
オリジナリティー&遊び心に溢れるトロフィー。
国内映画の映画祭故、ポーランド人じゃないと貰えません。

対談の内容も非常に有益だったのだが、私はこのトロフィーに感動しました。


よき映画の宝庫というと東のイラン、西のポーランドだが、ポーランドがなぜ傑作を送り出し続けてきたのかは、オレシュチクさんのお話で少しわかったような気がする。(イランの方は昨年講義を聴きに行ったがわからなかった。)
政治の面ではどちらかというと迷走しているポーランドだが、文化の面ではぶれずに次世代を育て続けているのは素晴らしい。

対談ではEUの中で注目すべき国はどこかというので、お二人ともルーマニアを挙げていたが、今回は出品なし。それと私自身は日本に紹介された最近のルーマニア作品はそれほど感銘は受けていない。

日程の後半に入ると、ゲストの登場やアフタートークなどもなく、淡々と上映が行われる。私自身は所用で予定していたスロヴァキアやスロヴェニアの作品は観に行けなくなった。これらは映画字幕ながら解説のハンドアウトが配布されたそうだ。

が!

「ヴィザヴィ」クロアチア
日本語字幕なしで解説ハンドアウトなし、上映前後の解説もなしと不親切ぶりが最悪クラス。作品自体は良いのかもしれないが(役者さんたちはよさげだった)ほぼ会話劇なので字幕なしで理解したとは言えず、ただただ残念だった。で、これ、コメディーだったの?

「西という希望の地」ドイツ
東独から西独への移住は難しいようで不可能ではなかったのか。まあそりゃ不快な思いはするだろうさ。息子が収容所で最初に打ち解けるのがエレーナというたぶんロシア人一家の娘、ヒロインの友達となるのはポーランド系のチェリストの女性。黒人の審問官の存在がなんだか不自然だった。
一家で亡命・難民収容所ものとしてはマノイロヴィチが精力的おじいちゃん役で出ていたブルガリアの「さあ帰ろう、ペダルをこいで」(EUフィルムデーズ上映時のタイトルは「世界は広い―救いは何処にでもある」)の方が無理なく楽しめた。

「ある海辺の詩人~小さなヴェニスで」イタリア
これは劇場公開時に見逃していたもので、ここで拾えてよかた。
ヒロイン、シェン・リー、友人リャンの表情が細やかでさすがだ。イタリアのおじちゃんたちも微笑ましい。中国人経営者もすごーくブラックなわけでもないようでほっとした。映像が美しい。さすがに一般公開された作品だなあと思う。

「コールガール」スウェーデン
何とも言い難いな。なぜ政治家たちは昔の極悪代官様のようなことをあからさまにやっているのだろうか?何それおいしいの次元の疑問。

「パッション」「アリーナ」ポルトガル
2本ともカルロト・コッタ主演で、ポルトガルらしく狂った映画だった。
コッタは暗いまなざしの濃い系の美形俳優で、彼あってのこの作品だったのだろう。彼が憂える場面の面持ちと肉体美を愛でる、という意味で。
そういう予感がしたので、それだけでは観る気になれなかったのだが、『売女の人殺し』へのオマージュではないかとも思って観に行ったのだが、サッカーネタはなし!ほぼ一切なし!「アリーナ」の方もなかった。

「ハンガリー大使館人質事件」
某イケメン、タマーシュさんこちらでも主役級。もう一人の犯人役の人も素敵だった。が、よくわからん。ハンガリー人には自明なのかもしれないが。大使の言葉の放送は実際のものだったのか?だとすると、あれだけのことを言ってお咎めなしか、謎だ。
いわゆるハンガリーの56年物(これはその2年後の事件)は、どれを見ても展開がミステリアスである。

エストニアにようやく観る価値のある映画(アニメーション以外で)が現れたのが嬉しい。
ま、監督はグルジア人で、グルジアはよき映画人を輩出してきたところだから当然よいものになるが。
リトアニアはフィンランドに依拠したような作りだったが今ひとつ。
ラトヴィアは未見。


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