『陽気なお葬式』63ページ
こういうとき神父はいつも、幼い頃、サッカーのグラウンドに立っていたときのことを思い出した。それは彼が子供時代を過ごした戦時中のパリ郊外での記憶だ。祖父母が管理していた亡命ロシア人の子供たちのための施設の裏手にある広場で、いちばん幼かった彼はキーパーがいないからという理由でおんぼろゴールの前に立たされて、ボールなどひとつも受け止められないと知りながら、カチカチに固まってその場に立ち尽くし、恥をかく瞬間を、ただひたすら待っていた…。
神父のヴィクトルは祖父が亡命第一世代(ロシア革命前後)からアメリカに住む「素朴で俗っぽい」ロシア正教の神父で、自身は信仰を持たない画家のアーリクが不知の病で死に瀕するのに及んで、最近入信し熱心な正教徒となった妻のたっての願いで(亡くなる前に何としても受洗させたい)呼ばれて、主人公アーリクと対面したところ。
さすがウリツカヤ。小難しくないのでさらさら読めてじっくり心に滲みてくる。でも前作の『通訳ダニエル・シュテイン』の方が好み。主人公アーリクは何故もてもてなのかな?
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