2014年4月6日日曜日

イーゴリ公の夢

ネトレプコ出演の「エヴゲニー・オネーギン」、アヴァンギャルドなアニメーションを駆使した「鼻」、幻想的になりきれていない「ルサルカ」と、METライブビューイングを観てきたが、遂に新演出(METでは100ぶ年ぶりだという)「イーゴリ公」を鑑賞してきた。

どうもこの歌劇団の演出には違和感を覚えてしまうのだが、それも今回が最高潮に達する。
ここ、オペラの歌の技量はあるのだろうが、バレエがね、ということなのかもしれない。
「イーゴリ公」と言えば、「ポロヴェッツ人の踊り」が有名で見せ場。
しかし、その場面がちっとも沸かないのだ。
逆にさーっと退いてしまう。
残念ながら血沸き肉躍るとはならない。
歌は上手いのだが…。
あと、コンチャーコヴナ役のラチヴェリシュヴィリはミス・キャストだな。
あまりに恰幅がよすぎるよ。
(来季はカルメンを演じるそうで、それは合っていそう。)
悪役ガリツキーらの酒宴場面も「もっと盛り上げてくれ~~~!!!」でしたね。

新演出を全否定する気はない。
12世紀ロシアではなく、いと不思議な衣装(長いコートに銃を捧げる兵隊たち、「スペードの女王」のゲルマンみたいな服を着たガリツキー、古代ギリシャ風?の白い衣装をぼてぼての肉体にまとっているラチヴェリシュヴィリ、まるでレーニンか!という剃った頭できっちり軍服をきこなすコンチャク汗)も許そうか。
でも、兵隊たちの着こなしチェックをしている割には、イーゴリ公、自分がファー付きの皮の短コートの前をはだけて着崩しているのって、これから戦いに出掛けようとしている軍の司令官としてどうなのよ、って気がしてならなかった。
というわけで、前半はなかなか登場人物たちの心象に迫れないでいた。

後半の、というか、最終盤の荒廃した公の故郷プチヴリで、民衆はこの戦争の最高責任者でもあるイーゴリを熱狂的に迎えて「彼が帰って来てくださったからにはもう大丈夫」的なハッピーエンドになりそうなところで、この主人公、暗い面持ちのまま、もしかして発狂してしまうのか?などと訝っていると、若干メッセージ性のありげなラストであった。
まあ、これから大変だろうけど、頑張ってね、と声をかけたくなる。

ニューヨークでばりばりのロシア語オペラを取り上げるのはとても意味があることだろうが、ロシアオペラの香りはかなり抑えられ、かといってまったくの現代風の演出に徹したわけでもなく、上級者向けのバリエーションであったように感じる。

好みで言うと、やはり最近BSプレミアムで放映していたボリショイオペラの「イーゴリ公」の方が安心して観ていられた。
ポロヴェッツ人のところでは歌いだしたくなるしね。

イーゴリ公を演じたのはイリダル・アブドラザコフという、いかにもタタールっぽい名前の、ウファ歌劇場出身の歌手。
ウファでは「イーゴリ公」でイーゴリのおつき役をやり、METでは「ホバンシチナ」に出演したことがあり、いつか「ボリス・ゴドゥノフ」のタイトルロールをやりたいと、幕間のインタビューで語っていた。
彼の夢が叶いますように。(来季のプログラムは既に発表済みだが、「ボリス」はなかった。)

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