『ブリギーダの猫』
お話もよかったが、まず表紙のみやこうせいさんの写真が好き!
私、オデッサのパスチェル通りで会った、この猫(↑窓のところ)のことを思い出したの。
ブリギーダの猫は、主人公の少女へレナの父の知人(というか使用人)の妹ブリギーダに飼われていた猫。
なので、ユダヤ人がゲットーに移らされた時に、へレナの家で猫を預かることになったのだけれど、ブリギーダがつけた名前がわからない。
作者は元々SFジュブナイルの作家(『竜の年』『パパは異星人』等の邦訳あり)。
1939年から1945年ワルシャワ、両親がユダヤ人を匿っていた、また父がゲットーの現実を敢えて娘に見せて記憶にとどめておきなさい、と言ったという実話をもとにした物語で、それだけに見えてくる現実はシビアだ。
“天使のような”幼い少女は、善意の人たちの祈りと努力にも関わらず、二度とへレナの前に現れることはなかった。
軽く“婚約”を承諾した近所のハンサム少年は、ゲットーで見かけたときにはもうすでにハンサムではなかった(ゆえに“婚約解消”を考えるへレナ、うーむちょっと残酷な乙女心だ。)
戦後、へレナが成長し、亡くなるまでを扱った原作と違って、作者の意向で、終戦直後の話までしかここでは訳されていないせいかもしれないが、慌ただしくへレナの前から姿を消していったユダヤ人の知人たちが結局無事だったのかどうかは殆ど明かされない。
猫の飼い主のブリギーダもしかり。
ポーランドの人にとってはあえて書くまでもないことだから、だろうか。
SF的手法で、というか、へレナに向かって猫が話しかけたりして、タイトな現実の中に、どこかほっとする雰囲気が漂う。
「わたしはただの猫ではありません」
「猫は猫でもメス猫です」
(メス猫ってただの猫じゃないのか?この猫、きれいな毛並みの三毛猫なのだ。ヨーロッパでは、日本ほど三毛猫がいるわけではないのだろうか、やや珍しがられているようだ。そして、表紙のみやさんの写真にも、しっかり三毛猫がいる。)
猫との再会はなにとなくSF(Sukosi-Fusigi)的だ。
この猫自体、ほんとうに戦争を生き延びたのだろうか?
終戦後、へレナの父は、それまで助けていたユダヤ人の使用人を去らせてしまう。
このあたり、どうも高度に政治的な事情が絡んでいそうだが…。
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