2011年12月7日水曜日

あなたなんか知らない

『時間はだれも待ってくれない 21世紀東欧SF・ファンタスチカ傑作集』はなかなかおもしろい。

収録作品はどれも本邦初訳、それもロシア語や英語からの重訳ではなく、原語からの訳である。

オーストリア 
「ハーベムス・パーパム(新教皇万歳)」
ヘルムート・W・モンマース著識名章喜訳

ルーマニア
「私と犬」
オナ・フランツ著住谷春也訳
「女性成功者」
ロクサーナ・ブルンチェアヌ著住谷春也訳

ベラルーシ
「ブリャハ」
アンドレイ・フェダレンカ著越野剛訳
※これだけ20世紀の作品。SFともファンタスチカとも言い難い、かもしれない。
現実に、非常にあり得そうな話。チェルノブイリもの。
チェコ
「もうひとつの街」
ミハル・アイヴァス著阿部賢一訳
※既読感があるのはどうしてだろう?

スロヴァキア
「三つの色」
シチェファン・フスリツァ著木村英明訳
「カウントダウン」
シチェファン・フスリツァ著木村英明訳

ポーランド
「時間はだれも待ってくれない」
ミハウ・ストゥドニャレク著小椋彩訳

東ドイツ
「労働者階級の手にあるインターネット」
アンゲラ&カールハインツ・シュタインミュラー著西塔玲司訳
※これはあんまりおもしろくなかった。

ハンガリー
「盛雲(シェンユン)、庭園に隠れる者」
ダルヴァシ・ラースロー著鵜戸聡訳
※川本喜八郎先生あたりがアニメーションを作るのではないか?という雰囲気。

ラトヴィア
「アスコルディーネの愛─ダウガワ河幻想─」
ヤーニス・エインフェルズ著黒沢歩訳

セルビア
「列車」ゾラン・ジヴコヴィッチ著山崎信一訳

一見不思議な「東欧」圏である。
だいたい、今どき「東欧」などという言葉が使われることは希少だ。
これについては、編者の高野史緒さんが序言で、沼野充義先生が解説で丁寧に書いていらっしゃる。
(読むとなるほどとそれなりに納得はするが、それでも私自身は「東欧」という言葉を使うことは決してないだろう。)
旧ハプスブルク帝国内というと、 ベラルーシやラトヴィアが仲間外れになり、ワルシャワ条約機構内というと、オーストリアがはみ出す。

彼ら、非西欧の作家たちの作品は、どことなく星新一風で、限りなくかな(愛)し。
そんな風に、妙に懐かしくもあり、一方で、この世によくもこんな作品が存在したものよ、と驚く。

未来のコンクラーヴェをユーモラスに語る冒頭作品から、何気なく神がこの世に降下しているトリの作品まで、多士済々の世界は、やはりどう呼んでいいのか、私は惑う。

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