上智の図書館の9階を訪れたのって、もしかしたら2008年の「トルストイ生誕180周年記念 ウラジーミル・トルストイ講演会」以来か?
上智大学は時々シンポジウムで思いのほか太っ腹なところを見せるのだけれど、本日のシンポジウムも「入場無料・申し込み不要」でこれだけの大人物を揃えたものができるのだから、ファンタスチーチナである。
まずご挨拶からして、上智大学ヨーロッパ研究所所長の村田真一先生である。
主催した研究所の所長なんだから挨拶なさるのは当然ではあるけれど、いつも演劇、あるいは文学のことをお話しされるので、こんな場にいらっしゃるのが何だか不思議な雰囲気。
でも、いきなりマラト・イズマイロフ(低迷するスポルティングを見限ったか?ポルトに移籍したばかり)やカペッロさんのことなんか持ち出される。
何だかわくわくする幕開け、ではなくてキックオフだ。
コーディネーターの市之瀬先生は盛況ぶりに驚いている。
あ、でもウラジーミルさんのときもこんなものだったし。
(客層はちょっと違うが。)
上智の図書館に友人が働いていた頃は、シンポジウムの情報をすぐ送ってくれていて助かった。
場所は図書館ではないけれど、ハルピン学院顕彰基金上智大学ロシア研究シンポジウムというものもあった。
兵頭先生、今プーチンさんのことをどう思っていらっしゃるんだろう。
1 ヨーロッパと日本のサッカー観の相違
私はサッカージャーナリズムのことは疎いので(TVは観ないし、雑誌も読まない)、申し訳ないことに最初のパネリストの方(サッカージャーナリスト)のことはまるで存じ上げなかった。どこかでお名前くらい聞いていてもよいように思うのだけれど。
オーソドックスでわかりやすいお話をされた。
(日本代表選手の名前を挙げて説明されたが、改めて私は今の日本の選手のことを知らないなあと認識した。)
柏レイソル監督の発言だと言う次の言葉「最初のチャンスで取れ!」
そうですよね~、とロシア代表の試合を思い浮かべつつ、そしてイラン代表の試合を思い出しつつ、頷くのだった。
(早い時間帯に先制すると行け行けムードでいい試合をするが、ぽっと入れられるとぐだぐだだめだめになり、観客もさっさと帰り始める、諦めよすぎる、近過去のあんな試合こんな試合の追想に入ってしまう。)
この方は「水がない」とおっしゃっていたけれど、上智の図書館には今どき珍しく冷水機があるのだが、水ではだめで欲しかったのは別の飲料なのか・・・。
2 『ヨーロッパ』サッカーの東漸 どこまでが『ヨーロッパ』なのか?
ヤコブソンのことばからお話の端緒を作った大平陽一先生。
チェチェン人富豪がスイスリーグのクラブを買収したニュースは目にしていたが、その後チェチェンでも失脚(政権から見放された、さんざん利用された揚句に)、ザマックスは破産して下部リーグ落ちしていたのは知らないでいた。
そのチェチェンの富豪は案の定テレク・グローズヌィの財源でもあった人なのだった。(結局何をする人なのか?やはりマフィア?)
テレクがチェチェン及びロシアの政策的なクラブであって、つまりチェチェンの人心掌握術の一環として、ずっとプレミアにいさせる(降格させない)だろうことは(ほとんど公然と)囁かれている。
最近ではダゲスタンのアンジも、より大きな規模でそんなところなのか?
あるいはロシアでは確固とした地位を築いているタタールスタンのルビンも?
それともテレクのダークサイドはこれらのクラブとはやはりどこか質的な違いがあるのだろうか?
かの有名なボスマン判決によってEU域内の移動の自由・職業選択の自由は大幅に広げられ、一方でシェンゲン協約で域外からの流入は格段に不便になり閉鎖的になっている。
EU域内と域外、ヨーロッパ中核地域と周辺・辺境の格差拡大(というよりそれまで存在しつつも人々が見てこなかったものなのかもしれない)、辺境から中央への一方的な片思いの現象あれこれ、再活性化するレイシズム(それが最も露わなのが皮肉なことにサッカーという場なのだ)。
大平先生が例示した«差別のマトリョーシカ»的な事象をここに具体的に記すのは控えるが、三菱ダイヤモンドサッカーによって出会った憧れのヨーロッパサッカーのネガティヴな点を浮き上がらせて下さった、としておく。
大平先生はその後のディスカッションなどでは殆ど発言されず、ご意見を伺えなかったのは大変残念だ。
私も、上記に書いたようなテレク・アンジ・ルビンの共通性と差異、あるいはひところ富豪によってのし上がったロシアの地方クラブとこれらロシア内共和国のクラブとの違いについて、日ごろから感じている疑問を大平先生ご指名で投げかけてみればよかったと、今書きながら思った。
会場の雰囲気からすると、やはり辺境は辺境であって、それらについての考察には関心が向けられていなかった、ような気がする。(企画自体は注意がはらわれていたと思うが、聴衆の関心がそちらに向かわなかった。)
3 ダイヤモンドサッカーからスポーツTVへ
コーディネーターでもある市之瀬先生のお話はハンドアウトがあった。ありがたい。
お話の前半は「市之瀬先生のサッカー人生の来し方を語る」だった。
やっぱり三菱ダイヤモンドサッカーだ。
私がいつも観ているロシアの試合と、市之瀬先生のご専門のポルトガル・サッカーは意外と共通点があるのかもしれない。
負けていると最後まであきらめずに応援することなくぞろぞろ帰り始める、とか、普段スタジアムががらがらだとか。
国の代表もリーグもランキングでは同程度だし、ポルトガルも位置的にはヨーロッパの辺境であるし。
(だが、EU域内というのは大きいし、国の規模は違う。小国なのでいい意味でも悪い意味でもやることが目立たない。存在感がない。)
・ポルトガルだけでなくギリシャ・トルコなど独裁制をとっていたところでは、クラブ間の格差が大きい。2ないし4の強豪+その他という構図。優勝候補は限られ、勝負の前から結果がわかってしまう。
・独裁政権下、日曜の午前中礼拝に行き、午後3時からスタジアムでサッカー観戦という行動様式だった。今は娯楽も多様化している。リーグがしぶっていたTV中継(80年代にはチケットが売り切れてから中継するかどうか試合直前に決まるというものだったそうだ)も、今は試合時間を左右するまでになっている。←夜9:00からが標準。これではスタジアム観戦しにくい。
市之瀬先生のご著書をもっと読みたくなった。
ハーフタイム
ところが、である。
上智が他の大学と違う点、それは異常なほど商売っ気がないこと。
パネリストの先生方のご著書の販売は一切ない。
東大のシンポだと東京大学出版会の本がしっかり売られているし(←もともとそれが目的だったりする)、昭和女子大のユーラシアサロンでも所狭しと並んでいる(雑貨まで売っていたりする)。
シンポのスタッフの確保ができないからか煩雑になるからかわからないが、会場でのご著書の販売は無理にしても紹介コーナーはあってほしい。
丸善と提携するのはだめなのだろうか?
会場では展示だけして、「こちらの書籍は2号館地下の丸善上智大学店でお求めください」として、丸善ではそういうコーナーをシンポの前から作ってもらう。
(シンポジウムに行く前から予習ができるではないか。)
図書館の建物が会場なのだから、図書館にも展示コーナーをつくってもらうのもいいかもしれない。
今、入口付近ではキリスト教の行事についての関連本の展示がされている(三木文庫提供)が、できればあんな感じで、だめならもっとシンプルに本を並べるだけでもいい。
1月13日追記:
しかし、考えてみれば、シンポジウムが終わったのは8時近くだし、始まったのだって4時過ぎなのだから、土曜のそんな時間には丸善は営業していないのだった。
だめか。後日、売店に行けるのは上智関係者だけになってしまい、あんまり旨みがないか。
やっぱりその場での販売を考えてください。
4 サッカー観戦の楽しみ
EU駐日代表部職員のリチャード・ケルナーさん。
まず、ロンドンの出身ということで「どのクラブのファンだと思いますか?」と聴衆に質問を投げかける。
アーセナル、チェルシー、トッテナム、フルハム…違う、違うというので、このへんで「プレミアのクラブではないのでは?」という疑念が起こるが、プレミア所属だとおっしゃる。
結局誰も当てられなかったが、正解はスウォンジーシティー。
えー!そりゃ、当てられないでしょ(失礼)。
お母様がそちらのご出身(ウェールズ人)とのこと。
お父様はイングランド人だが、一つのクラブの熱心なファンというわけではなく、偶にウェンブリーに連れて行ってもらったけれど、という程度で、リーグの試合よりカップ戦や代表戦の観戦だったというから、思うに日本人がイメージする«フットボール命のイングランド人»より、ずっとハイクラスのソフィストケイトされた階層の方なのではないか。
とても流暢な日本語で繰り出すイングランドジョーク満載(例:「世界一つまらないスポーツであるクリケット」)のお話は、耳が痛いまでにおもしろかった。
代表には何度も裏切られたので下手に期待はしない(特にPK戦)イングランド(それでもけなげに応援するよね)に対して、妙に楽観的予想をする日本のマスコミ。
外に出て行った選手に対して無関心なイングランド、国外リーグの選手の「活躍」を熱心に報道する日本(「得点したならともかくアシストでも、活躍したと言っている」←いや、アシストならまだしも、「得点の起点となった」とかいうのも日本ではありですよ、ケルナーさん)。
TV放映については、解説するのは殆ど元選手で、ゴールだけではなく、且つ相手のいいプレイも見せるイングランド、戦術論が大好きなくせに元選手よりS○○Pとかアイドルが出てきて解説は全く期待できない、そしてリプレイはゴールシーンばかり、相手のプレイはやらない日本。
もちろん日本の方が自慢できる点もある。
家族で楽しめるスタジアム観戦の雰囲気だとか、女子サッカーも盛り上がっているところとか。
↑
これはロシアなどとの比較でもほんとにそう思う。
ロシア人女性にサッカー観戦が好きだと言うと、ちょっと品がないのではないかみたいな目で見られるので、日本のファンはロシアとは違うんだよ、というのだ。
すっかり「サッカー観戦を楽しむイングランド人」を楽しませていただいた。
(上記のように、典型的イングランド人ではないにしても。)
お勉強事項:ケルナーさんは「ベスト8」のことを「ラストエイト」とおっしゃっていた。そういういい方をするのか。
5 文化としてのサッカー
やはり大学の先生のお話は授業を聞いているようで安心感がある。ハンドアウトもある。
新しい知識を得た新鮮な喜びに浸れる。
お話の内容は主に二つの事項で、一つは古式サッカー、カルチョストリコについて。
もう一つは、快楽原理に基づくサッカーの遊戯性の存在価値について。
このあとのディスカッションで西部さんからも指摘があったが、「サッカーはプレイするもの、原点はやっていて楽しいというものであらまほし。最近は習いに行くものになっているようだが」と、基本・原点に立ち帰り、翻って近年の強引な金権主義、ビジネス化を考えるのに、非常に有益なものだった。
鈴木先生はご病気だったそうなので、くれぐれもご自愛くださいますように。
6 ヨーロッパの島のサッカー(その1)
さて、宇都宮徹壱さんによる、写真を交えてのまたぞろ(っていうとどちらかというと悪いイメージ?いや、そうではなくて純粋に楽しみです)辺境サッカーのお話。
スイッチ一つで照明が切り替わり、カーテンが閉まり、スクリーンがおりて、PC(ではなくてモバイル機器かも)から写真が映し出されて、お話が始まるぞ、と。
そう言えば、これまでのパネリストで会場のOA機器の利用をした人は意外にもいなかったのだ。
「上智はすごいですね」との囁きが聞こえた次の瞬間…
悲報:写真は写らず、窓の調子も悪く、ばたばたいう音が止まらない。
スタッフがいろいろ試みるも、上手くいかないので、市之瀬先生、サッカーよろしく緊急事態に急遽対応を迫られ、ディスカッションを先にすることに。
上智って、ハード面は一見素晴らしいようなのだけれど、難しすぎてなかなかそれを使いこなしていないみたいだ。
授業でも先生が教室にあるOA機器の調子が悪くて(あるいは単純に鍵が間違っていたこともあったが)事務の人を呼んでこないといけないことが何度かありましたよ。
パネリストの先生方を呼び戻しに行っている間に、宇都宮さん、市之瀬先生、先生の教え子らしき聴衆数名との雑談のようなものになってしまったのだが(この場合それは仕方のないことだ)。
話の流れが、「ヨーロッパサッカーと日本」というテーマから大きく外れて、「ブラジルの治安について」になってしまったのは大変残念だった。
そんな話を聞きに来たんじゃないのに、みたいな気持ちになってしまった。
パネル・ディスカッション
急遽順番を入れ替えて始まる。
が、その最中にも、照明がついたり消えたり、カーテン(ロールスクリーン?)が開いたり閉まったりばたばた音をさせる、お化け屋敷状態が続き、落ち着かない雰囲気。
会場からの質問は
「日本代表をさらに強くするためにはどうしたらいいのか」
「Jリーグ空洞化を防ぐにはどうしたらいいのか」
「(ユースは)年齢で細かく分けすぎなのではないか、カテゴリーを外した方が強化できるのではないか」
という、参考にして、日本のサッカーを強くするために、«憧れのヨーロッパ»を比較参考するという視点からのものが多かった。
そのせいか、大平先生や鈴木先生などは殆ど発言されなかった。
ジャーナリストのお二人は質問の趣旨をすぐ理解し、適確に回答されていたので、さすがだ。
でもジャーナリストの方のご意見は別の場でもお聞きする機会がありそうに思うので、あまりそういう場を持たない大学の先生方に積極的に発言していただきたかった。
6 ヨーロッパの島のサッカー(その2)
さて、ようやく準備が整い、島のサッカーの写真が映し出される。
島のサッカー、まずカッリャッリ、マジョルカ、そしてマディーラ出身のスター、あの人の少年時代の写真。
宇都宮さんのレポートは
*フェロー諸島
*アイスランド
*マルタ
*シチリア
だが、ほんとうに駆け足になってしまったので、これは是非ご著書を拝読したい。
キプロスのことも知りたいし。
フェロー諸島、忘れもしない。
今日は勝てるだろう、と無理して夜更かしして、観たんですよ。
U21ヨーロッパ選手権予選のフェロー対ロシア戦。
ロシアはほぼベストメンバー。
なんとザゴエフまでいた(ザーガがU21の試合に出たのは確かこれきりだ)。
それが負けてしまったという。
すごい悪天候(寒くて風が強烈)でやりにくかったらしい。
なので、以来フェロー諸島には一目も二目も置いている。
日本の島のサッカーはまだまだこれからのようだ。
ロシアの島のサッカーは…サハリン?ノーヴァヤゼムリャ??
盛況且つ活況であったので、是非第二弾・第三弾をお願いします、市之瀬先生、村田先生!!
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