2011年5月11日水曜日

原題は「指令」

チラシを見たところ、フィンランド版「女狙撃兵マリュートカ」か?と思われた、「四月の涙」。
むしろフィンランド版「男は辛いよ」か??←寅さん映画では全然ないが。

「マリュートカ」に似ているところは実際かなりある。
男性が教養ある家庭の出身の白衛軍で、女性が貧しい農民の出自の赤軍という設定も。
捕虜になった女性を護送しているところで無人島に漂着、というシーンも(「マリュートカ」では男性が捕虜)。
(二人ともしっかり海に投げ出されたはずなのに、男性のコートが乾いていて寒くなさそうなので、「この島は男性の家か別荘があったのか?」と一瞬思ってしまった。)

男性アーロの描かれ方は、ありえないほど理想的なものだ(女性から見て)。
戦場という狂気の中で、理想と信念を貫く勇気を持っている。
(作家で判事のハレンベルグも、平時であったなら、よい作品をものし、あるいは良質な判決を下す法曹であったことが十分窺える。うすうす自軍の過ちがわかっているからこそ、独特の狂気に陥っていくのだ。)
女性に対して大変控え目な態度をとるので、その点は物足りない人もいるかもしれないが。
しかし、あそこまでしてもらえると、女性にとっては言うことないんじゃないでしょうか。
切なすぎるけど。
アーロをかくも理想的に造形したのは、実際にはあり得ないからじゃないかとも思う。
あり得ないけど、フィンランド内戦の勝者である白衛軍の犯罪行為を取り上げるにあたって、そうではない、ありがちな戦争犯罪に染まらなかった存在を示さずにはいられなかったのでは、と。

物語の後半になると、『軍事評論』レビュー曰く<驚愕の展開>になっていき、それはちょっとなー、というか、特に判事の奥さんの存在はなくてもよさそうに思えるし、宣伝には書いていなかった(書いてあったら私は観るのを躊躇ったかもしれない)が、「そうきたかー!」になっていき、そこまでしてしまうアーロが哀れで切ない。
そこまでしてしまったのは、言葉にするといささか手垢のついたいわゆる「愛」というものだと言ってしまえるかもしれないけれど、それよりも戦時であっても(特にこの場合内戦であった)敵であっても、ルール(裁判を受ける権利がある、虐待は許されるべきではない)は守らなければならないという信念が、彼の中にしっかりあったがゆえのことだ。

アーロ役のサムリ・ヴァウラモはアクション俳優出身ながら端正で知的な准士官がお似合いだった。
判事役も複雑で陰影に富む役柄を好演していたと感じる。
に比べると、女性兵士の態度は今一つはっきりしないところがあったが、演じたビヒラ・ヴィータラの硬質な美しさが際立っていた。
インゲボルガ・ダプコウナイテ的ハンサムウーマンでカッコイイ!

男性は軍の指令よりも自らの良心に従ったのだし、女性はやはり信念ゆえに保身を潔しとせず(←若干微妙)、子どもを救おうとする意思は母性というより女の友情であったように思える。
原題の意味は深い。

ところで、「フィンランド語・ドイツ語・ロシア語」と書いてあったけど、ロシア語がどこに出てきたのかわからなかった。
ドイツ語はゲーテの詩の朗読シーン。
ロシア語シーンとしてソ連兵でも出てくるのかと思っていたら出なかった。
「ワルシャワ労働歌」のところ?


「四月の涙」
アク・ロウヒミエス監督2010年フィンランド・ドイツ・ギリシャ
 ↑
筋書きを読むと「流されて」みたいな陳腐なストーリーを想像するかもしれないが、佳作。
カウリスマキでないフィンランド映画も健在なり。

「女狙撃兵マリュートカ」
グリゴリー・チュフライ監督1957年ソ連

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