2012年11月24日土曜日

ポーランド・ポスター展の疑問点いろいろ

前項で絶賛したポーランド・ポスター展だけれど、映画「尼僧ヨアンナ」のポスター(ヴァルデマル・シフィエジ、1961年)のキャプションを観て、あれ?と思った。

ここでは図録の作品解説を引用するが(たぶんほぼ同じことが書いてあった)、
「ヨアンナは1556年年フランスのボルドーで生まれ4人の子供をもうけたが、夫の死別後、修道女となった。」云々。

イエジー・カワレロウィッチ監督のあの映画って、そんな話だったかしら?
いや、少なくともポーランドが舞台になっていたのでは?
映画ではヨアンナの来し方がどうこういうより悪魔憑きのシーンが印象的だった。
実に理不尽な結末だったし。
なんかこの解説、違うみたいだなあ。

コージンツェフ&トラウベルクの映画のポスター「マクシムの青春」が「マキシムの青春」になっていたり、イェジー・スコリモフスキ監督の「バリエラ」が「バリア」と表記されていたりするのもおやっと思っていたのだが、この辺は“表記の違い”で済ましてもよさそうだ。
今更のように気がついたが、「四川のいい人」ってブレヒトだから、「セチュアンの善人」のことだったのね。
(しかし、セチュアン=四川なのだから、今までセチュアンとはセツアンとか表記されてきたそれが四川で悪いわけではない。ちょっと馴染がないだけで。)
しかし、しかしである。
おー、凄い!と思ったこのポスターのキャプションが…


「ミラー」
ソビエト映画や劇場のディレクター、脚本家、俳優であるアンドレイ・タルコフスキー監督製作のソビエト映画ポスター。

とあるのには、ずっこけそうになった。
なんで「ミラー」なんだ、「ミラー」ってなんだ。

タルコフスキー、演劇の仕事も(映画の方で干されたりしているときに)手がけはしたし、学生時代の習作やフィツィエフの「私は二十歳」で映画に出演もしていますよ。
しかし、演出家や俳優と堂々と書かれるとどうかという気がする。

もしかして他の解説も怪しいかも!

ポスター作品の解説は結構難しい。
(数年前に京橋のフィルムセンターであった「無声時代ソビエト映画ポスター」展の解説を書くのに、井上徹さんも「今となっては内容がわからない映画がたくさんある」と苦労されていた。)
今回のポスター展は殆どが映画や演劇の宣伝だが、それがどういうもの(だった)のか全て把握するのは困難(不可能?)だろうと思われる。
それでもあんまり適当なことは書いて欲しくない。

図録の解説は日本人の、おそらく美術系の教授が執筆されている。
特にポーランド語に精通しているわけでもなさそうだ。
明らかに映画や演劇には詳しくはない、実は今回の展覧会の作品の「解説」をするのにはふさわしくない人だったかもしれない。
(ポスターの美術的な面の解説に徹していたら、問題は生じなかったのではないか。)
もしかしたらポーランド側の誰かの書いた説明を元に書かれたのかもしれないし、翻訳を介したところでおかしなところが出てきてしまったようにも思える。
日本にはポーランドの文化に精通している方が少なからずいらっしゃるのだから、チェックを受ければよかったのに…。

そんなわけで、前項でも、作品名などの固有名詞は図録には合わせず、邦題として通っていると判断したものを採った。

43「マキシムの青春」→「マクシムの青春」
64「洪水の前」の内容の紹介もちょっと変。単なる成長物語とは言えない。
71「尼僧ヨアンナ」 原作はフランスだけれど、映画ではポーランドに置き換えられている。
98「バリア」→「バリエラ」(ポーランド映画祭2012で上映される)
131「ミラー」→「鏡」 タルコフスキーは俳優とは言えないと思う。
27「四川のいい人」→「セチュアンの善人」 (四川のいい人でも間違ってはいないが、馴染がうすいので)
38「シェーラザード」→「シェヘラザード」
67「黄金の子牛」 作家名が「ILFとE.ペトロフ」と書いてあるが、イリヤ・イリフと エヴゲニー・ペトロフ。不正手段で大金を得る会計士は主人公ではない。
102「祖父の祭」→「父祖の祭」
117「ロメオとジュリエット」 微妙だけれど、バレエでは「ロメオとジュリエット」、その他では「ロミオとジュリエット」となるのでは。
141「偽善者の陰謀」→「偽善者たちのカバラ」

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