2013年3月10日日曜日

作家とサッカー6 グリゴリー・オステル

グリゴリー・オステルと言っても、知っている人はそんなにいないかも。
ソ連~ロシアの児童文学者で、「ワンという名の子猫」シリーズ«Котёнок по имени Гав»(「雪の女王の」レフ・アタマーノフ監督作品)や「38オウム」«38 попугаев»などの人気アニメのシナリオのライターでもある。

実はオデッサ生まれなんだけれど、彼の作品『いろいろのはなし』«Сказка с подробностями»に出てくるサッカーチームはチェルノモーレツではなくてスパルタークなのだ。
対戦相手は不明。まさかチェルノモーレツじゃないよね?ディナモかトルペドかな。

サッカーの試合でも、ときにフィールド内に侵入してくる動物がいて、試合が中断することがある。
去年もアンフィールド・キャットなんてのが現れたでしょ?
最後のUEFAカップの決勝(シャフチョール・ドネツクが優勝!!!)でも、猫が疾走して試合を中断させた。
『いろいろのはなし』で語られるサッカーのお話も、これにちょっと似たもので、スパルタークが試合をしていると、ある動物に邪魔されてしまうのだ。(17章では試合前で、この時点ではことなきを得ていたのだが、19章で事件が起こり、20章で一応解決する。そして。)

21番目のいろいろ すごくまじめな質問

「プロスタクワーシャ」園長さんが言いました。「何かすごく聞きたいことがあるのに、我慢しているんじゃないかい?そういうのはよくないよ。我慢しないで言ってごらん」
「相手チームのことをどうして敵って言うの?」プロスタクワーシャはたずねました。

原文では
Противники противные?
противникは「反対者、敵対者」「競技の相手」「敵軍」。
противныйには「向かいあう、反対側の」「対立する、敵対する」という意味と、「嫌な、不快な」という意味がある。

私はスポーツの記事を訳す時に、противникやсопертивникはできるだけ「敵」とは訳さず、「対戦相手」とか「相手側」とか「ライバル」などという訳語をあてるようにしている(可能な限り、戦争を連想させるような言葉は避けている)が、やっぱり「相手チーム=敵」なのだろうか??

「もちろん嫌いな奴らだからよ!」サーシャとパーシャがきっぱり言いました。「考えただけでもぞっとしちゃう。きっとみんな目がつりあがって、髪の毛が逆立って、鼻はとんがってるし、耳は突き出てるし…」サーシャとパーシャは身震いしました。
「とんでもない!」園長さんはびっくりして言いました。「そんなことあるもんか。短パンをはいたふつうのサッカー選手たちだよ。敵って言うのは、試合で戦うからそう言うだけさ」

園長さんは遊園地の園長さん、名前が出てくる子たちはメリーゴーランドの木馬たち。
この短い章はそっくりここで紹介したいところ。
いつもはとびきり生意気な発言をするおしゃまなプロスタクワーシャが、実はあんまりオポチュニストではないようで、“大人もそんなに賢くない”“だんだんいろんなものを壊し始めて、ほっといたら地球だって…”と心配して、「すごくまじめな」(真剣な)問いをするのだ。

ここで大事なことはひとつだけ。ゲームの対戦相手や自分と違う意見の人を、誰でも敵だとか嫌いだとか言ってはいけないってことだよ。嫌いになっても良いことはひとつもないんだ。

『いろいろのはなし』グリゴリー・オステル著毛利公美訳東宣出版2013年刊
原文はこちらで読める。イラストが可愛くないなー。
でも「敵」の絵はサーシャとパーシャが想像するものに近いのかも。

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