2010年10月31日日曜日

リッちゃんの恋について

沼野先生訳の『新訳チェーホフ短篇集』収録のチェーホフの作品は以下のとおり。

*かわいい(従来のタイトル『可愛い女(ひと)』
*ジーノチカ
*いたずら(従来のタイトル『たわむれ』
*中二階のある家 ある画家の話
*おおきなかぶ
*ワーニカ
*牡蠣
*おでこの白い犬
*役人の死
*せつない(従来のタイトル『ふさぎの虫』)
*ねむい
*ロスチャイルドのバイオリン
*奥さんは小犬を連れて(従来のタイトル『小犬を連れた奥さん』等)

どれも割と好きな作品で、全集のみならず未知谷のチェーホフ・コレクションシリーズを集めて愛でているというものが多い。
(青文字がチェーホフ・コレクション所蔵の作品です)

特に「いたずら(たわむれ)」は、最初に知ったのが実は本ではなくお芝居だった。
それもプロのではなく、学生演劇。
上智大学内の小さな劇場。
客席まで張り出した「雪山」の装置を、主演の男女が何度も橇で滑り降りる。
「好きだよ、ナージャ!」
「好きだよ、ナージェンカ!」
と言いながら。
笑った。
最後のナレーション「今となっては、何故あんないたずらをしたのかわからない」というのも、淡々として聞いた。
ちょっとありきたりな結末だとは思いながら。
「彼女にとってそれが一番幸せで、美しい思い出なのだ」というのは、「そのはずだ」という語り手の思いこみないし願望じゃないのさ!と少々冷やかに思いながら。
或いは、それが一番の幸せで美しい思い出なのは、ナージャではなくて語り手の方であろうと思いながら。
でもいい作品だ、と思い、沼野先生みたいにこの作品を残酷だとは思わなかった。
むしろほのぼの系だと感じた。

それと、沼野先生はアヴィーロワの回想について、つまり「チェーホフとの恋」について、かなり懐疑的に書かれています。
が、先生も引用されたイワン・ブーニンの「彼の生涯には、せめて一度でも大いなる愛があっただろうか」という言葉、そのあとに「いや、一度あった。リディア・アヴィーロワと。」という部分を載せなかったのは意図的なのだろうか(たぶんそうだろう。)

『かもめ』『恋について』などの作品にはアヴィーロワの存在が投影されているというけれど、沼野先生の解説によると、『いたずら』(たわむれ)のナージャにも、アヴィーロワは絡んでいるということです。

スーズダリでの朝、散歩に出かけて、ホテルを出てすぐのところにこんなものがあった。





何だろうなあと思って、その場に行ってみました。



上から見るとこんな感じ。

もうおわかりでしょうか。
滑り台というか、橇山というか。

軽薄な私はさっそくナージェンカになった気分だったのでした。

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