今年のロシア文化フェスティバル主催映画祭は、「映画祭」と銘打ちながら、上映作品はたった1本。
イヴァン・プィリエフ監督の「白夜」Белые ночи 1959年
チラシによれば「ドストエフスキー生誕190周年&没後130周年記念」という、あんまりきりがいいとはいえない、こじつけ気味のメモリアルイヤー???上映で、「実質的に日本初公開」とのことです。
地味な作品なのではないかと、あまり期待しないで観に行ったのですが。
なかなかにして、意表を突く作品でありました。
まず主人公のひきこもり夢想家青年が案外いけているのだ。
まあ、子どもっぽいわけだけど。
誰に似ているのだろう?
既視感があったが。話し方とか表情とか。
なんで、この人、寝転がって空想にふけり、それで暮らしていけているのか不思議だが、仕事をさぼっていても大丈夫な下級役人というのは当時から存在していたようで、現実には全く共感できなそうなキャラクターなのだが、この映画ではあんまり悲壮感もない。
老いても「自分の生涯はだめだったなあ…」と嘆いているいうよりも、「あの5日間は素晴らしかった、あの思い出があってほんとによかった」と、幸せそうで、ほっとする。
実らぬ恋(元々全く成就の可能性のない恋であろう、冷静に考えれば)ではあったが、夢想家氏はナースチェンカに出会わなければ一生ほんとに哀れなままだったはず。
人を愛した記憶、苦しんでいる人のために何事かしたいと奔走した経験。
それを得たのだから。
で、第2夜がにぎやかで、プィリエフらしくオペラチック。
夢想家氏の幻想は、そのまんまマリインスキーのバレエです。
(「ドン・キホーテ」+「海賊」)
ヴィスコンティの静かな雰囲気からはかけ離れています。
プィリエフ、あの「シベリア物語」の監督さんですから、こういうところで楽しませてくれる。
そしてナースチェンカ、朗々と歌い上げます。
「白夜」、ミュージカルだったか?!
この作品、モスフィルムなので、ペテルブルグ(撮影当時はレニングラードだったが)の運河一帯のロケではなく、かきわりセットを使用しており、それが「石の花」などで散々使い古されたあれですが“総天然色”の幻想的な色彩で。
この間行って観てきた、歩いてきた運河界隈、現実感があるようでないようで、ペテルブルグならではの雰囲気が漂っていました。
後半はドラマチックに一気に盛り上がります。
「カラマーゾフの兄弟」も、ほんとうはプィリエフ監督、こんな風に演出したかったのかもしれない。
中途で亡くなって、ウリヤーノフとラヴロフが引き継いで、手堅い作品に仕上がったけれど、プィリエフさんはそうじゃなくて、深くはないけれど入り込みやすくて明るいドストエフスキー映画を夢見ていたのでは。
という気もします。
ナースチェンカ役のリュドミーラ・メルチェンコは丸顔で目がぱっちりしたロシアの可愛いお嬢さんの典型。
可愛いから何をやっても全て許される。
(残念ながらメルチェンコ、1997年に56歳で亡くなっている。)
「青春だなー」という映画。
「ペテルブルグだなー」という映画。
ナースチェンカの恋人は、加藤剛の趣あり。
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