かつて「黒田龍之助先生のご著書」で紹介した『世界のことば100語辞典 ヨーロッパ編』
黒田先生はおっしゃっていた。
「著者が選ぶ最後の一単語、ヨーロッパ編ではお酒絡みの単語を選んでいる人が多いけど(注:黒田先生もウクライナ語で「ホリールカ(火酒)」をセレクト)、アジア編ではそれが一人もいないんですよねえ。アジア編を執筆された先生方は真面目ですよね。」
改めて«アルコール関連単語»を選んだ先生方を調べてみると、
☆ウォッカ:ロシア語(柳町裕子先生)
☆火酒(ホリールカ):ウクライナ語(黒田龍之助先生)
☆ビール:チェコ語(保川亜矢子先生)
☆酒:ブルガリア語(寺島憲治先生)
☆ワイン:フランス語(川口裕司先生)
☆乾杯:グルジア語(木下宗篤先生)
うむ。フランス語以外は地域的にかなり偏りがありますね。
その地域はやはり飲んだくれのお土地柄ということになるのか??
「アジアが真面目」といっても、この辞典のアジア編を担当された先生方がヨーロッパ編担当の先生方よりもそういう方面には関心が向いていらっしゃらなかったということであって、決してヨーロッパの方がアジアよりも飲酒文学が興隆してきたということでは必ずしもない、という点は、念のため指摘しておかなければならないだろう。
『バッカナリア 酒と文学の饗宴』を読むと(目次だけでも)、要するに世界中ほぼどこでも酒飲み(というか飲んだくれ)は存在するということがわかる。
もちろん、文学者=飲んだくれ、ではない。
文学者でない虎さんはいるし、下戸の文学者もいる。
まあしかし、そうは言っても読むとよくぞ皆さん人生酒びたり(レニングラード・カウボーイズ「ジンギスカン」)なものだよ。
いやはや、出てくる出てくる、酔っ払いの面々が。
中国やベトナムの文学には疎いのは承知していたが、フランス・イギリス・ラテンアメリカの文学もあんまり読んでいないので、こういった文学的教養をもっと持っていたらもっと楽しめたのだろうと思うと残念。これから読む楽しみはあるが。
(イギリスはしかし、ここで扱われているのは『火山の下』という小説でメキシコが舞台となっている。だから出てくるお酒もメスカルやテキーラなどあちらのお酒だ。)
・第2章«バルカン»
何でそれに関心を持ったの?と思うどくろ杯の系譜。ビザンツのニケフォロス一世ゲニコス帝、キエフ・ルーシのスヴャトスラフ公。
・第3章«ドイツ»
例外的酔いどれ詩人のゲーテ。やはり。
・第4章«ロシア»
ドストエフスキー『罪と罰』のマルメラードフとラスコーリニコフ考察。
ここではマルメラードフをロシア文学一の酔いどれとしているが、私としては『酔いどれ列車、モスクワ発ペトゥシキ行』のヴェネディクト・エロフェーエフをもろ手を挙げて推薦したい。
彼なしにはロシアの酔いどれ文学は語れまい。
それにしても、ジノビエフの『酔いどれロシア』は必読っぽい。
・第5章«チェコ»
もちろん登場するハシェクの『兵士シュベイクの冒険』。
が、印象的なのはヤン・ネルダ『フェイエトン』の中の短編『リシャーネクさんとシュレーグルさんのお話』で、全編頽廃的なムードが強いこの本の中で一服の清涼剤たるハートウォーミングな読後感があるので、お薦めだ。
・第6章«フランス»
ゾラ、そろそろ再読しなければ。しかし気が重くなる。
・第7章«イギリス»
そんな小説があるのか、そんなお酒があるのか、という発見があった。しかし悲惨だ。
・第8章«ラテン・アメリカ»
ジン(ヒネブラ)にご注意!!
・第9章«ペルシア»
イランはブドウの産地で(美味かどうかは知らないが)ワインも結構作られている。現代でもハーフェズはかの地に潜んでいるだろう。いや、ハーフェズの詩(訳されたもので味わうしかないのが残念だが)を読むと美味に違いないだろうと確信する。
・第10章«日本»
概論的な記述なので、基礎知識のない私には辛い。が、これを機に読もうという気になった。
第11章«中国»
「篇篇酒有り」の陶淵明、酒仙李白、酔吟先生白楽天、斗酒学士王績、さすが中国文学、中国詩文学。しかしここで取り上げられているのは散文の『紅楼夢』である。
第12章«ベトナム»
おお、ベトナムまで!
などと感嘆しながら、次はヤロスラフ・ハシェクの『プラハ冗談党レポート 法の枠内における穏健なる進歩の党の政治的・社会的歴史』を手に取ったのでした。
(ハシェクといっても、元サッカー選手・監督の法曹ではありませんので、ご注意ください。)
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