『ジャポニズムのロシア 知られざる日露文化関係史』
日本人でもこんなこと深く考えていないんじゃない?というようなことを真面目に研究していらっしゃる、若きロシア人日本文化研究者。
(1968年生まれ)
後半の仏教と神道の研究については、個人的にあまり関心が持てなかったので、ロシアにおけるジャポニズムについての考察、それに言い古されているテーマではあるが表題の「なぜ日本人はロシア文学を好むのか?」について、ロシア人はこんな風に観ているのか、といろいろ感心しながら読めた。
日本人が好むロシア文学者は
*イヴァン・トゥルゲーネフ
*レフ・トルストイ
*フョードル・ドストエフスキー
*アントン・チェーホフ
である。
で、まあトゥルゲーネフやレフ・トルストイやドストエフスキーについては、それなりに理由づけされていて、それが納得できるものかどうかはともかく、そうかそうかと読み流していったのだが、チェーホフに関しては
「筆者にはちょっと理解しにくい」
「日本人がなぜチェーホフが好きなのか?劇作を別にしては筆者には答えられない。」
と、相当突き放した、冷めた見解である。
結局この人自身がチェーホフを好きになれないから、チェーホフが好きな人のことを理解できないということではないかな、と私には解されるが。
おりしも『R25』という、いわば東スポを雑誌にしたような、今までも殆ど情報としては得るところの少なかったフリーペーパーを、今日霞が関の駅で入手(表紙にスパス・ナ・クラヴィかポクロフスキー大聖堂らしきものが描かれているのを見かけたので手に取った)。
「まるごと1冊ロシア連邦特集号」とのこと。
中身はそれなりに薄いです。
上述したとおり東スポっぽいフリーペーパーなので。
特にスポーツのところ(17-18ページ)とか。
全然「トリビア」じゃない7ページの「『罪と罰』『戦争と平和』etc.なぜロシア文学は長い作品ばかりなのか?」とか。
これにはすごくがっかりですね。
長い作品「ばかり」ではないことは、代表作として『かもめ』『初恋』などもそこに挙げられていることからわかるだろうに。
長い作品もあるし、中くらいのもあるし、短いのもある。
一ページにも満たない掌編もある。
それに長い作品があるのはロシア文学だけではなくてフランスもアメリカも日本も(埴谷雄高とかさ)そうでしょ。
米原万里説によれば「長編作家は醜男で短編作家はハンサム」。
(ロシアの作家ではないですが、スタンダールはすっごく不細工だったがゆえに、自作の中では美男主人公を登場させています。)
チェーホフ(短編作家)は、美男だったかどうかは現代の感覚と比較してもどうしようもないところがあるだろうけれど、かっこよくてモテモテだった。
それはそうだろう、と私も思う。
湯浅芳子は「チェーホフみたいな人じゃない限り」と憧れの基準をものすごく高いレベルにおいてしまっていたそうで。
それもわかる。
かっこいいというのは顔かたちのことではない。
言うことがまず、かっこよかったに違いない。
言うことだけがかっこいい、で終わってしまうと『ワーニャ伯父さん』のセレブリャコフ先生みたいになってしまうが、チェーホフは実行も伴う人であり、医療に教育活動にその身を捧げる人だったのだから。
日本の、特にクリスチャンはレフ・トルストイとドストエフスキーが大好きな人が多い。
というか、ロシア文学のイメージはそれしかないという人が殆ど。
そりゃ文句なく文豪だし、巨匠だし、すばらしい作品をありがとう、なのだけれど。
R25の28-29ページのブックレビューは、上記「トリビア」によるロシア文学作品の紹介が低レベルに終わっているのとうって変わって、わりとまとも。
*『巨匠とマルガリータ』
そうだった。昨日だったか書いた「ヒロインがなかなか登場しないロシア小説」に、これも加えなきゃ。
私が物心ついたころ、ロシア演劇と言えばブルガーコフ・ブルガーコフ・ブルガーコフという状態になっていて、子ども心に「ブルガーコフって何かおどろおどろしいのだろうか?」と想像をたくましくしていたのだけれど、読んでみたら割とくだらないダジャレや殆どナンセンスなギャグや未成年者を充分困惑させるようなエログロが混じっていて、いやーすばらしかったですね。ロシアの高校生ってこんなの読むの?!何とまあ…、でありました。好きです、ブルガーコフ。
一番好きなのはベゲモートが市電に無賃乗車するところ。
*『嘘つきアーニャの真っ赤な真実』
リッツァがすてきだ。彼女が幸せになってくれていてほっとする。
男子同級生編を書かれる前に逝ってしまわれたのは残念でならない。
*『イワン・イリッチの死』
レフ・ニコラエヴィチ、あなた、死んだことあったんですか?というくらい、迫真の臨死シーンが、『セヴァストーポリ』でも、『戦争と平和』でも、『アンナ・カレーニナ』でもあるのだけれど、死そのものが前面に出ていることで、これには参りましたというほかはないです。
*『幻のロシア絵本1920-30年代』
ロシア絵本と言うよりソヴィエト絵本。ただ革命の熱気、アヴァンギャルドっていずれにしろ瞬間風速無限大なものなので、粛清の有無に関わらずそんなに長くは持たなかったのでは。
*『図説ロシアの歴史』
極端から極端へ。ふり幅がいつも大きい、大きすぎるのがロシアなのです。
*『やってくれるね、ロシア人 不思議ワールドとのつきあい方』
たくましいロシア人、たくましい亀山さん。おもろうてやがてかなしき。
なぜ日本人はロシア文学を好むのか?
さあね。
だいたい、ほんとに好んでいる?
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